成年後見制度の概要
成年後見制度とは、"認知症、知的障がい、精神障がいなどによって物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。判断能力が十分でない方は、財産管理や契約締結などを自身で行うことが難しい場合があり、また、判断ができずに不利益な契約を結んでしまう場合も考えられます。こうした判断能力が十分でない方の保護を図り、権利を擁護するために設けられた制度です。成年後見制度は、大きく「任意後見」と「法定後見」の2つに分けられます。任意後見は、将来、自身の判断能力が不十分となった場合に備えて、あらかじめ任意後見契約を結んでおき、判断能力が不十分になった際に任意後見が開始する制度です。任意後見人を誰にするか、どのような権限を委任するかは、自身で決定します。他方、法定後見は、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に後見開始の審判等を申立て、家庭裁判所によって選ばれた後見人が本人の支援を行う制度です。後見人の選定や権限については、家庭裁判所が決定します。なお、法定後見は「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じた制度が利用できるようになっています。
「NPO法人ほっと」も法人認可されてから,2025年の11月で20年を迎えようとしています。介護保険とともに誕生した成年後見制度も、25年が経過しました。ほっとが法人後見事業を行ってからも、10年の歳月が過ぎました。
国際的に考えられている成年後見制度普及率は、人口の1%が妥当とされていますが、日本の場合は令和4年の12月現在で0.19%という低い数字になっています。高齢者の人口比率からしてみても極めて低い数字といえます。
政府はこの状況を改善すべく2016年に成年後見制度利用促進法を整備していますが、追い付いていないのが現状です。今後、『後見爆発』とも表現されている後見ニーズに対応していくために市民後見人等 後見人の育成にも力が注がれてきていますが、被後見人の経済力によって後見人の種類が決まってしまうという『後見人の差別化』がより一層顕著になるのではと、ほっととしても危惧しています。
後見人は、成年後見制度の理念に沿った『その人らしい暮らしを実現していくための制度』として、支援方法を考え見つけ出していかなければなりません。障がい者が抱えている日常生活上の困難さの多くには、権利侵害の問題が含まれていることを感じ取ることが必要です。家族や福祉関係者の目には権利侵害に見えなくとも、第三者からの視点で捉えると権利侵害になることや、非合理的なことでも、被後見人にとっては、大切な事柄もあります。『その人らしい暮らし』を考えるためには、そのひとを知る必要があります。
ほっとでは、法人後見のみならず、家族後見での申請支援や、相続・信託についての相談も行なっています。マイナンバー制度の導入に伴い、収入申告などの行政手続きが軽減されるところもありますが、申告漏れが無くなる事で、福祉サービスの利用料や、医療費の負担が増えたり、財産管理、個人情報の問題も浮上してくると予想されます。福祉だけではカバーできない事柄を整理し解決していくために、ほっとの法人後見事業は、ますます必要となってくると感じています。
成年後見制度について、私たちが考えていること
知的障がい者にとって、「親亡き後」には、「住む場所」「お金の管理」「日々の生活のこと」など、本人の財産管理と身上保護の解決が待ったなしで求められます。その際の重要な選択肢として、成年後見制度があります。
この成年後見制度は、障がいのある人の権利を守るために、法的行為や財産管理について貴重な役割を果たします。しかし、成年後見人には、広範な法定代理権を付与するなど、本人への自己決定支援型の意思決定支援を求めている障害者権利条約との関係では、大きな問題があると指摘されています。
一方、知的障がい者・家族からは、「まだ親が元気だから」「兄弟姉妹がいるから」。また、「後見人には費用がかかる」「本人のことを本当に守ってくれるのか?」などの声があり、なかなか第三者による成年後見制度の利用がすすまない現状があります。そうした中、多くの方々は家族による支援・後見を行っています。更には、「老障介護」に直面している現実があります。成年後見制度の利用は、「親亡き後」の準備という視点ではなく、成人としての「暮らし」を確立していくために、家族支援に依存するのではなく、社会支援を確立していくべきだと思います。
NPO法人ほっとは、本人の立場に立った法人後見を行うために、2005年11月に設立し、成年後見事業を行っています。また、成年後見に係る様々な相談(年金など)にも応えてきました。
成年後見活動について、私たちが大切にしていること
現在、成年後見活動にあたって、法的には、「生活支援員の位置づけ」は不明確です。しかし、私たちNPO法人ほっとは、本人らしい生活を送るには、生活支援員の活動が重要だと考え、当事者家族の視点から生活支援員活動を行っています。「元気にやっているか?」「本人が我慢していることはないか?」「困っていることはないか?」など日頃の生活のことや健康状況をつかみ支援していくことを大切にしています。
そのため、ほっとの生活支援員には、福祉の専門家だけではなく、可能な限り「障害がい者家族の方」になってもらい、同じ障がい者家族の気持ち・目線から、本人の生活支援活動を行っています。現在、ほっとの生活支援員の派遣は、毎月1回。基本的には男性には男性の生活支援員を。女性には女性の生活支援員が行くことにしています。
ほっとが実施した「成年後見制度に関するアンケート調査」結果について(報告書の抜粋)
第1章 調査の概要
1 調査の名称
「成年後見制度に関するアンケート」
2 調査主体
特定非営利活動法人ほっと(以下、ほっと)である。調査票の設計、調査結果の集計・分析まとめについては、ほっとと高倉弘士(芦屋大学経営教育学部)が行った。
3 調査の目的
「成年後見制度」は多様な支援の一つであり、障がいのある方の権利を法的根拠に基づいて守るための制度である。しかし、現状は成年後見制度の利用はまだ広がっていない。こうした背景を鑑み、安心して後見人に託していくために、何が必要なのか、なぜ利用につながっていないのか、使いにくい点は何か、どうしたら制度をもっと活用できるようになるのかなどについて明らかにすることを目的としている。
4 調査対象
調査対象は、「堺市内の福祉施設などを利用されている障がいのある方のご家族」である。
5 調査期間
2023年12月~2024年1月までの2ヶ月間
6 調査の方法
調査には質問紙法を用いた。回答用紙は無記名(後見制度を利用している方も利用していない方も協力を依頼)で、次の2つの方法で回収した。
①回答用紙を施設へ提出し、NPO法人ほっとが回収する。
②回答用紙を返信用封筒を用いてNPO法人ほっとへ郵送する。
7 配布数と回収数
配布数 1,200 回収数 445 回収率 37%
第6章 NPO法人ほっととしてのまとめ
アンケートから導き出された成年後見制度が拡がらない障壁として主に4点を上げたい。
まず、1点目は裁判所が決定した後見人への信頼についてである。
障がい特性や言葉で表現できない障がい者の意思(選択と決定)を大切にしてくれる人が後見人として活動して欲しいと願っている。だから、本人の理解者として専門家より、親兄弟姉妹が後見人となる率が高い。後見人の資質として障がい者理解を求める声に答えていかねばならない。
特に、後見人は財産管理(本人の収入と支出の管理)を担っており、お金の使い方についても本人の選択と決定を尊重して欲しいと願っている。
後見人への信頼を高めていくためには、後見人の判断に対して本人だけでなく、家族や多様な職種の支援者が意見交換ができたり、後見人の監督機能の充実と強化が必要と考える。
2点目としては、後見報酬についてである。障害基礎年金が主たる収入であるにも関わらず、資産に応じてではあるが、年間約20万円の後見報酬の支払いが必要となる。本人の収入だけでは暮らしつづけることができるのかという不安がある上に、後見報酬の負担が困難だと捉えられている。利用しやすい後見制度とするためには、後見報酬をだれが負担するのが望ましいのか。権利保障としての制度活用をすすめるためには被後見人の利用負担という考え方だけでなく、公的負担の拡充をすべきと考える。
3点目としては、裁判所が選任した後見人を容易に変えることができないことや後見人の活用を取り下げられない点である。
後見人の変更については、異議申し立ての方法はある。しかし、実現は容易ではない。基本的には後見人と被後見人との信頼関係をどう構築するかが重要である。またそのサポートを家族や多様な支援者が行うことが不可欠であると考える。
4点目は、後見に申立ての手続きが複雑で時間がかかることがあげられる。やったことがない手続きであることが負担感を大きくしている。使いやすい制度としていくために、相談の窓口や学習する機会を増やしていきたい。親が元気なうちに準備や検討に入れる状況を広げていきたいと考える。
詳細は、「報告書」(A4判44P)(2024年8月発行)